前回の記事の復習「重い病気にかかって働けなくなった52歳の男性が、生活に困って、AIGスター生命保険と締結していた生命保険契約を解約しようとしたところ、解約返戻金は28万円にしかならないことが判明。このため、日本初の生命保険買取りベンチャー企業「リスク・マネジメント研究所」に保険加入者の地位を849万円(死亡生命保険金2830万円)で譲渡した。約款では、譲渡には保険会社の同意が必要である旨の規定があったため、男性はAIGスター生命保険に対して譲渡に同意して名義を変更するように申し入れたが、AIGスター側は「人命の売買等に等しく、モラルリスクに抵触する。」として、保険の売却への同意を拒否。そこで、男性は、譲渡への同意と名義の変更を求めて提訴。一審、二審ともに男性側敗訴後、最高裁判所に上告。上告棄却。」
この事案を投資の視点で考えてみると、重い病気にかかって働けなくなった男性にとって、死亡時に受け取る2830万円(実際には遺族が相続する。)より、現在受け取る849万円の方が何倍もの価値があります。他方、生命保険買取会社にとっては、現在の849万円より、男性の死亡時に受け取る2830万円の方が価値があります。つまり、この契約は、男性にとっての現在価値と生命保険買取会社にとっての将来価値との等価な交換ということができます。生命保険買取会社が不当に安く買い叩いたという事情がなければ、男性にとっても納得のいく契約であり、福祉の観点からも望ましい契約であるという点が重要です。
既にアメリカでは、この種の生命保険売買が盛んに行われていて、セカンダリーマーケットが非常に発達しています。生命保険売買の実情については
株式会社リスク・マネジメント研究者のホームページに詳しい記載があります。また、アメリカには、
Life Insurance Settlement Associationという協会もあります。
さらに、アメリカでは、生命保険売買が一歩進んで、ファンドの形態になっており、ライフセツルメント・ファンドと呼ばれています。上記の事案では、生命保険買取会社が買い取り資金を負担していますが、これを不特定多数の投資家が負担するわけです。このように多数の投資家を介することで、資金を集めやすくなるだけでなく、モラルハザードを防ぐことも可能になります。つまり、生命保険の買取人は、保険を売却した被保険者が死亡しなければ利益(生命保険金)を現実化できないわけですから、被保険者の死期を早める行為(殺人など)を行うというモラルハザードが起き易いわけですが、不特定多数の投資家と保険の売却人との間には個人的なつながりがありませんから、このようなモラルハザードは起きないわけです。
投資商品としてみた場合、余命確率さえ計算できれば、期待リターンを求めることが可能ですので、株式より債券に近い投資といえ、実際、アメリカでは、定年後の堅実な資産運用の手段として人気が高いです。
また、この種のファンドは、株価や金利の影響をあまり受けず、基本的に、時が経つにつれて価値が自然増加していくのが特徴です。時間が経つにつれて、生命保険金を受け取れる確率が増加していくからです。
このように、裁判で争われた事案は、金融問題としても捉えることができますし、社会福祉の問題としても捉えることができるのですが、何れにしろ、日本でも生命保険の売却に関する法制度の整備を真剣に議論するべき時が来ていると思います。老後資金の心配の筆頭は医療費ですから、生命保険の売却を可能とすることによって将来不安を軽減し、可処分所得を増えしてやれば内需の拡大にも寄与すると思います。
老後の金銭面に関する不安と、退職後の堅実な資産運用のニーズ
の両方を満たせる生命保険ファンドの日本への導入が待たれます。
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